BLOG馬場毎日 sawayaka

視界不良の馬場より金ゐ國許が綴る、満願成就三千里手前の幸福雑記

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

昭和は遠くになりにけり

『天花』で、主人公の祖父が「かげろうや」と句をついで詠んでいるのを聞き、ふと思い出した(何だか最近の私は思い出してばかりだ)。元の句は言うまでもなく、「降る雪や明治は遠くなりにけり」である。作者の名は中村草田男。くさたお、と読む。

草田男は虚子の流れを汲む守旧派の俳人である。加藤楸邨、石田波郷らと共に『人間探究派』と呼ばれ、俳句の近代化に大きな功績を残した。

人間の内面を詠むことを探求したから「人間探求派」。何だかよく分からない名称をつけられたものだが、とにかく、草田男は現代俳人の中で最も名の知れた人物のひとりである。現代俳句協会幹事長や俳人協会初代会長に就任しており、業界内でもドン的存在だったし(これは偉そうだったということではない)、冒頭の句が収められた第一句集『長子』は万国博覧会のタイムカプセル収納品に選ばれた。著名も著名、あまりに有名だ。

草田男と言えば「万緑」(旧字で「萬緑」)。「万緑の中吾子の歯生え初むる」は超が付く有名句で、小学校の教科書に載っているほどだが、この名を冠した草田男主宰の俳誌「万緑」は、やがて季語として定着する。これも有名すぎる挿話である。ちなみに「万緑」はまだ続いている。ホームページまであった。

人と柄の解説は無駄だからやらない。が、そういえば死の前日に洗礼を受けるなんて、『白鳥の死』的なことをやっていたりもする。あれはだれだったっけ。そうだ正宗白鳥だ。



本当に、私の中学時代は草田男とともにあったと言っても過言ではない。四六時中草田男の俳句とその情景を思い浮かべ、何かにつけて引用していた。

北海道に修学旅行に行ったときは「鴨渡る鍵も小さき旅カバン」と悦に入って繰り返した。行き先は網走だったのに、私は映画を見ていなかったので「網走番外地」の歌を知らなかった。だから代わりに「詩(うた)」というか「俳句(うた)」を口ずさんだのである。図書室当番になったときは「書を読むや冷たき鍵を文鎮に」と詠んだ。いずれも『長子』に収められている名句である。

「いつもポケットにショパン」ならぬ、いつもバッグにみすず書房の全集を忍ばせていたが、全19巻の中で「使用頻度」が一番高かったのは、やはりと言うか案の定と言うか、第4巻だった。もちろん他も素晴らしい内容だと思ったが、比喩ではなく、4巻は光を放っているように見えた。今目次を思い返してもぞくぞくする内容である。あまり正確には記憶していないので、ここに収録作品を列挙することはしないが、ぜひ何が収録されているのか、各人お調べになってもらいたい。

というのも、私は現在草田男の本を一冊も持っていないのである。


中学卒業後、私は草田男と距離を置き、お定まりのブリティッシュ・ロックにどっぷりと浸かっていた。冷静になって考えてみると、それは「反抗期」のようなものだったと思うが、エレキギターを手にして以来、本棚のみすず書房は数冊のスコアに姿を変えた。

草田男がいくら素晴らしい作品を残していようと、「ど」がつくマイナージャンルに落ち着いた俳句の世界で、何ができる、何が見つかると言うのか。その存在自体に疑問を持たないわけにはいかなかった(スコア数冊分にしかならなかったことは、いよいよ私の失意を強めることとなった)。

私は「マイナー」だという理由だけで、草田男を、そして俳句を見限った。いずれまた読み返すとは思わなかった。まだネットさえ普及していない時代に、「マイナー」はすなわち「弱さ」を意味していた。当時の私は「弱さ」よりも「強さ」に憧れた。そして、「単純な二元論」という、ありきたりな反論用の言葉さえ持っていなかった。


定型文句を振りかざすことにも飽き、いつしかロック熱も冷めた2002年、立ち寄った本屋で草田男に出会う。みすずの全集に未収録だった講演集『俳句と人生』が出版されていたのである。芭蕉の晩節をめぐる評論家・山本健吉との論争、いわゆる「軽み」論争について、依然草田男は語りつづけていた。私はその2年前に、講談社文芸文庫から『蕪村集』が出ていたことも知らなかった。

店頭で立ち読みしながら、私は高校時代の或る夏の日を思い出していた。暑い日であった。私はその日、文化祭で焼きそばか何かを作るために、野菜を大量に買い込んできたのであった。帰りがけに部室に寄った私は、部屋の積もれた古本の中に草田男の『大虚鳥』を見つけた。両手を塞ぐスーパーの袋を置き、本を手に取る。パラパラとめくっていると、かつて大いに熱中した、馴染み深い俳句の数々がそこにあった。すぐに廊下から友人の呼ぶ声がして、私はその本を閉じたが、その日一日中、なぜかかつて暗誦した句が頭から離れなかった。

祝日をはさんで、私は激怒する学友の前にいた。
野菜を部室に置き忘れていたのである。

「どうすんだよ?もう使えねえじゃねえかよ!」












「野菜、もう駄目?くさったお?」




くだらない? そう、思い出話はいつでもくだらないものさ。

「思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ」
スポンサーサイト

 HOME 

Calendar

04 « 2005/05 » 06
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

Administer

Monthly Archive

Categories

Recent Comments

Recent Trackbacks

Recent Entries

Blog Pet


私のブログを盗み見て言葉を覚え、話しかける(クリックする)と返事をするらしい。あまつさえ勝手にエントリーにレスをつけてくるという。名前の由来説明は不要だと思うが、詳細なプロフィールが知りたい方&「なんのこっちゃ」と思った人は上の「ねずみ」という文字をレッツ・クリック。

占い

Catchphrase

Profile

Administer

Others

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。