BLOG馬場毎日 sawayaka

視界不良の馬場より金ゐ國許が綴る、満願成就三千里手前の幸福雑記

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詩シリーズ1 尾形亀之助

(※この文章はブログ『我輩葬送曲』2005年3月分に著者ユゴーが加筆・修正・再構成したものです。)


 昨日の晩、会員の平が『現代詩手帖』の通算100号だか何だかの記念号を持って遊びに来た(もちろんもう片方の手にバドワイザーの瓶6本組があったのは言うまでもない)。通産100号の特集は「いま詩は誰に届いているのか」だった。平はこういった前提確認が大嫌いな男なので、この弱腰を一緒に嘲笑しようと、酒の肴に持参したようだ。

 現代詩のおかれた苦境は容易に理解できた。周りを見渡しても、現代詩(に限定しなくてもよいが)を愛好している人間などまず一人もいないし、会話に登場することさえない。通常人であるはずの私も、普通に生きてきて唯一現代詩と<自然に>触れ合った機会といえば、大ヒットした谷川俊太郎の「朝のリレー」ぐらいだった。確かに私の周囲には「朝のリレー」から何かを感じ取り、あるいは感涙した人間が多数いた。しかし、では、彼らのうち何人が余韻が冷めた後においても詩を愛読したかというと、まったくのゼロであった。芥川賞のモーニング娘。化と騒がれた何年か前の文学と全く同じように、見事なまでに彼らは詩というジャンルを通過していった。

 まさか谷川俊太郎だけが詩人であるはずはないが、この国にはコピーライターといえば糸井重里しかいないように、カムチャッカの若者は皆一様にきりんの夢を見なければならず、所詮ブームはブームでしかなかった。谷川俊太郎の詩はジャンルとしての「詩」を消費するための生贄であり、あくまで偶然として受け入れられただけであった。

 21世紀現在、詩とは乙女が書くもので、世間から辛うじて認知されているのは「ポエム」に過ぎない。しかも、この「ポエム」は「詩」という単語の英訳ではなくて、夢見がちとメルヘンのあいのこ、すなわち適応能力の未成熟を意味する蔑称であることくらい、小学生でも知っている。根っからのビンスキーである私にさえ、この『現代詩手帖』の前提確認が、足元を固める総括的特集には見えなかった。平は「かなりテンパってるな」と笑ったが、全く同感だった。

 それにしても、なぜ記念号で不安感を丸出しにしなければならないほどに、詩は追い詰められたのか。その理由を知りたくて、縁もゆかりもない詩の世界に浸かってみようと思った。直接のきっかけは『私の現代詩入門』(辻征夫、詩の森文庫)である。以下、ネタはたいていこの本から拾っている。


風邪きみです

誰もゐない応接間をそつとのぞくのです
ちかごろ 唯の一人も訪ねて来るものもない
栄養不良の部屋を

そつと 部屋にけどられないやうにして
壁のすきから息をひそめてのぞくのです

風邪がはやります
私も風邪をひいたやうです



 尾形亀之助の処女詩集『色ガラスの街』より。文体といい、感性といい、まさしく少女趣味だが、そこに影を落とすことで、哀しみを際立たせている。この無題の詩は、少女趣味と生活者のリアリズム、二つが絶妙に均衡した作品である。以下の経歴(現代詩文庫1005『尾形亀之助詩集』思潮社より)をみると、尾形の生き様そのものだったように思える。

【年譜】
明治33年(1900年)生まれ 生家は莫大な資産家
大正10年(1921年)森タケと結婚。生家からの仕送りで生活をまかなう。
大正11年(1922年)第一詩集『色ガラスの街』起稿。絵画の個展開く。
大正13年(1925年)第一詩集『色ガラスの街』刊行。このころから絵筆を捨て,詩に専念。
昭和元年(1926年)第二詩集『雨になる朝』起稿。
昭和 3年(1928年)妻タケと離婚。芳本優と同棲,のち結婚。
昭和 4年(1929年)第二詩集『雨になる朝』刊行
昭和 5年(1930年)この春頃より,餓死自殺を口にする。第三詩集『障子のある家』を刊行。
昭和11年(1936年)生家の財政難悪化。仙台市役所に臨時雇として勤めはじめる。
昭和16年(1941年)妻優,三度目の家出。喘息,痔病,尿道結搾症,腎臓炎に悩まされる。生家ますます逼迫。
昭和17年(1942年)12月,喘息と長年の無頼な生活からくる全身衰弱のため,誰にもみとられず永眠。42歳


 『色ガラスの街』より、もう一つ。
 

私の愛してゐる少女は
今日も一人で散歩に出かけます

彼女は賑やかな街を通りぬけて
原に出かけます
そして彼女はきまつて
短く刈りこんだ土手の草の上に座つて
花を摘んでゐるのです

私は彼女が土手の草の上に座つて
花を摘んでゐることを想ひます
そして彼女が水のやうな風に吹かれて
立ち上がるのを待つてゐるのです


              
 尾形の詩は、言葉から情景が透けて見えるようで、美しい。しかも情景を透かして見せる技法がいやらしくない。この作品もかなり鼻に付くタイプのロマンティックにもかかわらず、その美しさが独善的でない。凄い。


「梅雨の中」
   
雨の日は早くから部屋に電燈がついて
うす暗くなつた立樹の上に白けた空が窓のやうに残つた
 
電燈を見てゐると電燈の中にも雨が降つてゐる
 
とき折り梅の実が落ちる
 
何故私はぼんやりしてゐるのか
外が暗くなりきると夜になつてしまつた
そして 一日中傘をさしてゐたやうな気もちになつてゐた



 昭和3年の作品。尾形について「死ぬ前までの10年間はさぞ長かったろうと思う」という文章をどこかで読んだ。鈴木志郎康は「この世の中で、自分をまるごと自分自身だけに即して生かして行くためには、無為貫徹する以外にはなく、自分自身に即して生きるということが人間の真実なのだということを、亀之助は考え実行したのであろう。」と述べているが、私も昨日ちょうどそう思ったところである。すごい偶然もあるものだ。さらに一つ。


「夜がさみしい」

眠れないので夜が更ける
私は電灯をつけたまゝ
仰向けになつて寝床に入つてゐる
電車の音が遠くから聞こえてくると
急に夜が糸のやうに細長くなって
その端に電車がゆはへついてゐる



 詩集『雨になる朝』より。尾形はこの詩集の後記に「この集をこと新らしく批評などせずに、これはこのまゝそつと眠らせて置いてほしい。」と書いている。クールすぎて思わず「じゃあ出すなよ」と突っ込みたくなるが、それは野暮というものでしょう。目新しいものでないはずの「急に夜が糸のやうに細長くなって」という表現が強い力を持ち、なぜか情景から目を離せない。




特別企画「ユゴー、ブログを振り返る」第三回
あの頃俺は“詩春期”だった

――今回はかなり書き足しましたね
そうね。足さざるを得なかったよね。俺は詩というジャンルそのものの力を試したかったんだ。だから敢えて暴言とも取れる過剰な書き出しを加えて、俺が詩を取り上げた真意をはっきりと伝えておく必要があった。

――完全に失敗しているように見えますが
仮にそうだとすると、俺はとんだ恥をさらしたことになるね。あと、確実に敵を作ったね。

――なぜ急に詩にはまりだしたんでしょうか
あまりにも縁がない世界で、逆に興味をそそられたっていう天邪鬼な理由はあるな。俺はいつもそうなんだ。どこかの本――タイトルは忘れたけど多分ドイツの哲学書かな――で読んだんだが、マイナー時代のカーリングを先取りして、地面に石を置いて、その前をほうきで掃きつづけるっていう悪い冗談があった。そんなパイオニアスピリッツがこの頃溢れていたよね。

――それ多分「稲中」ですよね
それと、この時期、インフルエンザにかかって、葛根湯を飲んでいたんだが、それも理由の一つだよ。葛根湯って、あんまり西洋医学的じゃないというか(笑)、効力が過小評価されているよね。でも、俺はあの「上品」とは縁遠い粉薬のおかげで、即座に回復したんだ。「世間から軽んじられているものでも、実際は分からないんだ」ってことを身をもって知った。それは希望であり、同時に恐怖でもあった。

――この場合、著作権って大丈夫なんですか?
まあリスペクトだから。言ってもリスペクトだから。

――「詩シリーズ」はこの後も続きますが、「なぜ詩は追い詰められたのか」という問いに対する答えは出たんでしょうか
馬鹿言っちゃあいけない。今まさに俺が詩を追い詰めてるところなんだからよ(爆笑)

――ありがとうございました
すいませんでした
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今回も

力作ですね。
キャラも固まってきたね。

ユゴーが思った以上に動いてくれて。

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