BLOG馬場毎日 sawayaka

視界不良の馬場より金ゐ國許が綴る、満願成就三千里手前の幸福雑記

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同潤会アパートに行ってきた 上

2月9日の朝日新聞朝刊に、表参道ヒルズ建設で取り壊された同潤会青山アパートの記事が掲載されていた。見出しを抜き出すと、こうである。「表参道ヒルズ 長く愛して新しい顔 延々270?、自信のビル 建て替え巡り曲折の30年」。11日に新しくオープンする丘陵にはアパートの一棟が復元されているという。雑踏嫌い・洒落嫌いの私にとって表参道が心地良い町であるはずがなかったが、どういう風の吹き回しか、行ってみる気になった。

アパートの設計者が「柘植」という名前だった奇縁から心変わりしたのではない。省みて私は近代建築の美というものに真剣に向き合ったことがなかった。特に整理したことはないのだが、茅葺民家が建築の美の究極であると信じて疑わなかった今までの私は、併せ持った廃墟を堪能する極端な癖のために、中間に位置する近代建築の受け止め方を解さずに至ったのである。近代建築と一口に言っても色々あろうが、知らないので分類できない。海鼠壁は近代であろうか。格子窓は中世であろうか。この文体はやはり不快であろうか。時に街で出会ったときに愛でるのみに留まっていた。

近頃は直感と断言で感性を試す荒行を自らに課していて、これを「厚顔無恥」と謗る人が多いのは只不思議の一言に尽きるが、己の眼に対する信頼の度合いを量る好い機会だと思った。幸い公開初日の11日までにまだ日がある。青山の前に、残された二つの同潤会アパートを見に行くことにした。


今から80年以上前、1923年(大正12年)に発生した【関東大震災】は東京・横浜の市街地を焼け野原にした。同潤会アパートはその後の住宅復興を目的に建設されたもので、耐震・耐火構造を備えた「我が国としては最も新しく突端的形式を備うるアパートメント」(同潤会十八年史)であった。電気・ガスは勿論、当時はまだ珍しかった水洗トイレ、ダストシュートまで付いていた。折しも時代は座式から立働式への<キッチン革命>最中にあり、アパートに設けられた流し台が主婦たちの心を決定的に奪ったようだ。「いずれのアパートメントもその貸付開始に当たっては例外なく抽選をもって入居者を決定するの他なき有様であった」(同掲書……って【ここ】からの再引用ですが)。

同潤会アパートは大正15年から昭和9年までの短期間に、中ノ郷、青山、柳島、代官山、清砂通り、山下町、平沼町、三田、三ノ輪、鶯谷、上野下、虎ノ門、大塚女子、東町、江戸川と、15箇所も建設された。しかし、老朽化が進み、相次いで取り壊されて、現在残るのは三ノ輪と上野毛の2つのみである。新聞記事によれば、青山アパートにも「建て替え話は60年代後半から幾度となく浮上した。だが、住民の意見がまとまらない。開発業者も入り込んだが、バブルがはじけ白紙に戻った。ようやく動き出したのは、95年に阪神大震災が起きてからだ」という。

景観の美、建築の美の礎に人間が置かれるのは当然であろう。それは倫理的な問題ではなく、美の質においても、すべて、人間から隔たったところにあるものは人間の手の内のものに劣るからである。人の手を離れた時点で、ものは生命本来の輝きを失い、既に美の源泉は枯れてしまっている。ここで、人の手の内にあることを実際的な人肌との触れ合いと混同してはならない。人間の素直な認識がものを輝かせるのである。そこにそれがあるという平易な事実を受け容れることが可能になって初めて、我々はそのものに美を見出すことができ、その認識が平常に紛れることが可能になって初めてそのものが美を自ら放つのである。だからこそ経年こそがものの美を磨くのであり、我々が本来的美、自然美と錯覚するところの廃墟の美は、決して人外の身となって放たれているものでないことに気付かねばならない。……みたいなね。みたいな入りはお嫌いですか。金ゐです。


荒川区東日暮里二丁目。異彩を放つ三ノ輪アパートは、鉄筋コンクリート造の4階建てで、昭和3年に建てられた。壁という壁に亀裂が走り、所々骨組みが露見している。古い建物は周りにいくつかあったが、それにしてもアパートは桁外れの古さを感じさせ、見るからにそれと分かる外観であった。

建物の脇で中に入ろうか迷っていると、少年四人組が歩いてきた。皆一様に笑みを浮かべ、しきりに驚いてみせる。「何これ?」「住んでんの?」「お化け屋敷かよ!」彼らの口から同潤会という単語は出なかったが、地元民らしき少年が「住んでるみたいだよ。中に入ったことないけど」と解説した。近くで暮らす人々の目に、この<歴史的建造物>がどのように映っているのか、興味があったのだが、やはり見慣れてしまうだけなのだろうか、それ以上のやり取りはなかった。

しばらくすると、正門から男性が出てきた。私と同じように朝日新聞の記事を読んで駆けつけたのであろう、大きな一眼レフカメラが首にぶら下がっていた。何故か気まずそうに男性とすれ違い、敷地内に入ろうとすると、「壁が落ちてくるから入らないで」と住民に注意された。そうだった、ここはアパートなのである。無遠慮にカメラを向けて悪いことをした。建物の写真を撮っていいですか、と聞き、承諾らしき一応の承諾をもらうと、ぐるりと一周しながらシャッターを切る。


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